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最高裁判所第二小法廷 昭和49年(行ツ)5号 判決 1974年5月31日

東京都江東区亀戸三丁目五九番一四号

上告人

有限会社叶商事

右代表者代表取締役

堀節治

右訴訟代理人弁護士

藤川成郎

東京都江東区亀戸二丁目一七番八号

被上告人

江東東税務署長佐藤保夫

東京都千代田区大手町一丁目三番二号

被上告人

東京国税局長守屋九二夫

右当事者間の東京高等裁判所昭和四七年(行コ)第四三号法人税更正処分取消請求事件について、同裁判所が昭和四八年一〇月二六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被上告人江東東税務署長に関する部分につき本件上告を棄却する。

被上告人東京国税局長に関する部分につき本件上告を却下する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人藤川成郎の上告理由について。

原審の確定した本件の事実関係のもとにおいては、所論の各点に関する原審の認定判断は相当であつて、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)に所論の違法はない。論旨は、原判決を正解せず、もしくは独自の見解に立脚して原判決を非難するものにすぎず、いずれも採用することができない。

なお、原判決のうち被上告人東京国税局長に対する訴えに関する部分については、上告理由を記載した書面の提出がないから、同部分に関する上告は却下を免れない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、三九九条の三、三九九条、三九八条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、注文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川信雄 裁判官 岡原昌男 裁判官 吉田豊)

(昭和四九年(行ツ)第五号 上告人 有限会社叶商事)

上告代理人藤川成郎の上告理由

第一点 原判決は債務者に対する意思表示なきにかかわらず請求権の放棄(債務免除)が生ずると解するもので民法第五一九条に違背する。

債権の放棄とはすなわち債務の免除であり、債権者より債務者に対するその旨の意思表示によつて法的効果を生ずる法律行為に外ならない。このことは民法第五一九条の明定するところであり、債権者が債権の満足をうけるため催告、裁判上の請求等の行動に出ないことすなわち権利の不行使が債権消滅の効果をもたらさないことは言うまでもない。

そして債権者が貸借対照表、損益計算書等自己の会計帳簿、財務諸表中に請求権を記載しないことあるいはその決算に基く法人税申告書の税務当局への提出がいずれも意思表示と解しえないことも明らかである。

しかるに不当にも原判決は、被上告人東京国税局長において上告人が不当利得返還請求権を放棄したものと認めたのは単に上告人が該請求権を益金に計上しなかつたことによるのではなくして、……建物の帳簿価額合計一六九万七、九三四円を雑損失勘定に振り替えて該金相当の損金を計上したことによるもるである(一審判決第九丁裏参照)との一審判決の認定をそのまま是認して引用しているのである。すなわち原判決は上告人が請求権の存在を自己の帳簿上計上しなかつたことをとらえて権利の放棄が行われたとするのである。

第二点 原判決は詐害行為取消権の行使によりいわゆる転得者が債務者に対し当然不当利得返還請求権を取得すると判示するがこれも誤りである。

本事業において転得者たる上告人の蒙つた損失は建物の帳簿価格たる一、六九七、九三四円であるが、債務者たる訴外堀節治に民法第七〇三条にいわゆる現存利益の存しないときは不当利得返還請求権は生じないのである。しかも裁判上詐害行為取消権の行使が確定判決によつて認められても、その被保全債権の存在しないことが裁判上確定したときは詐害行為取消権はもはや行使しえなくなる。

原判決は訴外堀節治の租税債務に関する訴訟において仮りに堀節治が勝訴したとしても、国が同人に対し過払税額を返還する義務を負うにすぎないのであつて、詐害行為取消訴訟の確定判決の効力がこれによつて左右されるものではないから上告人は堀節治に対して有する不当利得返還請求権を失うものではないと判示している(原判決第三丁裏(二)参照)。

詐害行為取消の行使により上告人が建物の所有権を失つた昭和四一年一〇月一三日当時訴外堀節治と税務当局との間の租税債務に係る所得税更正処分取消の訴訟は東京地方裁判所昭和三六年(行)第八五号事件として係争中なるもすでに審理を了り、判決を待つばかりとなつていたのである。この事件で堀節治の主張が認められたときは詐害行為取消権の被保全権利たる租税債権の存在が否認されるのであつて国は徴税を中止せねばならない。この場合上告人が堀節治に対し不当利得返還請求権を主張しえないことは明らかである。

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